日本のタイルの歴史が楽しく学べる
「江戸東京たてもの園」タイル探訪
はじめまして。タイルライターの金藤です。建物の壁や床、店先でキラリと輝く街のタイルに魅せられ、気づけばタイルの世界にどっぷり! そんな私のおすすめ“タイルスポット”をご案内します。
今回は、東京都小金井市にある「江戸東京たてもの園」をご紹介します。
「江戸東京たてもの園」とは
今回ご紹介する「江戸東京たてもの園」は、東京都江戸東京博物館の分館として1993年に開設された施設です。
約7ヘクタールの敷地に文化的価値の高い歴史的建造物が30棟。茅葺(かやぶ)きの民家から昭和の名建築まで、園内を歩けば日本家屋の特長がひと目でわかるスポットです。
園内には、明治、大正、昭和の建物が多く保存され、タイルを使った建物が15カ所も!
ちなみに、タイルの語源は、物を覆うという意味のラテン語“テグラ”。「どんなテグラがあるのかな?」と、宝探し気分で巡ってみると、子供はもちろん、大人でもワクワクしますよ。
大正から昭和初期の建物にタイルが多い理由
なぜ園内にタイルを使った建物が多く残されているのか? 秘密を解くカギは、関東大震災が関係しているようです。
100年前、1923年(大正12年)に発生した関東大震災では、多くのレンガ造りの建物が倒壊。また発生時がお昼ごはんを作っていた時間帯ということもあり、大きな火災が起こりました。そこで防災面から使われるようになったのが、火災に強いコンクリートなどでした。
でもコンクリートは多くの建築費用がかかり、一般庶民には手が届かなかったので、木造の建物を包み込むタイルが注目されたそう。
タイルの使い方には意味があった
ここからは日本の建築におけるアイデアいっぱいのタイルの使い方を「江戸東京たてもの園」の建物を見ながら解説していきましょう。
先人の暮らしを見てみると、タイルにいろいろな意味を持たせて使っていたことがわかります。
【使い方1】白タイルで清潔感をアピール
例えば、白色のタイルを使って“清潔に見せる”という視覚効果。
1918~1921年、スペイン風邪の流行時には、昨今のコロナウィルス感染拡大時と同じように、衛生管理が多くの人にとって悩みの種だったよう。「この場所は清潔ですよ」と証明するには、汚れが落ちたことがひと目で見て分かることが必須でした。そこで水まわりに白色のタイルが好んで使われるようになったようです。
【使い方2】タイルで願掛け!?
願いをかなえるためにタイルを使った、という例もあります。「江戸東京たてもの園」の「東ゾーン」にある「花市生花店」の床には、1枚だけ黒タイルが張られ、店主がこのタイルを踏まないようにして願掛けをしていたという、言い伝えがあります。
願掛けにタイルを使うなんて、「発想が天才的!」だと思いませんか?
【使い方3】タイルを使って高級感を演出!
そうそう、こんな装飾をまちなかで見かけたことはないですか?
今ならパンやお菓子が入っていそうなタイル張りのガラスのショーケースは、引き出しから取り出す特別感と商品の保護のためにこのカタチになったようです。
呉服店が百貨店に移り変わる過程で登場したそうですが、タイルが良い感じで高級感を醸し出していますよね。
【使い方4】モザイクタイルで安全対策
昭和の時代に戻った気分にひたれるのが園内の「子宝湯」です。浴室に入るとママパパ世代に懐かしい記憶をよみがえらせるのが、そう、足裏に伝わるタイルの床のヒンヤリとするあの感覚! ここに来れば、令和の今でも体験できますよ。
また、昔ながらの銭湯や温泉の浴槽には、小さなモザイクタイルがよく使われていることにお気づきでしょうか? 浴槽のタイルが小さな理由は、滑りにくくする工夫といわれています。
スゴ技タイルとの出会いを楽しむ!
最後に、園内で出会える“推しタイル”をご紹介します。
【推しタイル1】万世橋交番
まず、おすすめなのが「東ゾーン」にある「万世橋交番」です。見どころは、タイルではなく“目地(めじ/タイル同士のつなぎ目のこと)”。
顔を近づけてよく見てみると、つなぎ目の断面部分が半月形に盛り上がっているのがわかるはずです。
これは東京駅の駅舎の煉瓦(れんが)でも使われている「覆輪(ふくりん)目地」という日本独自の高級な施工なんです。こんなに細い目地を丸く引き出すなんて、まさに神業!
【推しタイル2】小出邸の応接間
次のおすすめのタイルは、園内にある「小出邸」の応接間。こちらでは、工芸品のような輝きを放つタイルを見ることができ、一枚一枚に違った美しさが感じられます。
歴史的建造物が保存された「江戸東京たてもの園」では、園内をめぐりながら時代を超えた貴重なタイルに出会えます。ぜひみなさんも、昔の暮らしを想像しながらタイムトリップならぬ“タイルトリップ”を親子で楽しんでみてくださいね。
■江戸東京たてもの園
住所:東京都小金井市桜町3-7-1(都立小金井公園内)
営業時間:【4月~9月】9:30~17:30(最終入園17:00)/【10月~3月】9:30~16:30(最終入園16:00)
休園日:月曜(月曜が祝日または振替休日の場合は翌日)、年末年始
アクセス:【電車】JR中央線「武蔵小金井駅」北口からバスで約5分、西武新宿線「花小金井駅」北口からバスで約5分
料金:一般400円、大学生(専修・各種含む)320円、高校生・都外の中学生・65歳以上200円
※都内在住または在学の中学生、小学生以下は無料
(参考文献)『タイル名称統一100周年記念「日本のタイル100年」美と用の歩み』INAXライブミュージアム(2022年)
記事を書いた人
金藤ミチコ
彩り豊かな街タイルを求めて各地を巡るタイル大好きライター。歩きながら素早くタイルを探し出すのが得意。タイルの絵付けもしています。
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