新島のあめりか芋って知ってる?
東京の伝統野菜を学ぶ&食べる旅
空前のサツマイモブームといわれる昨今。焼き芋や干し芋をはじめとするサツマイモの専門店が急増し、全国各地から希少な品種が集まる焼き芋イベントなども人気を集めています。
東京・伊豆諸島の新島(にいじま)で栽培されている「あめりか芋」も、“幻のサツマイモ”と称される希少な品種のひとつ。昔から島民の生活を支えてきたソウルフードでもあります。
そこで今回は、あめりか芋の魅力を探るべく新島へ出発! 「いこーよとりっぷ」の姉妹サイト「未来へいこーよ」による親子向け体験イベントに同行し、子供たちと一緒にあめりか芋の特徴や歴史、食べ方などを学んできました。
島民のソウルフード「あめりか芋」とは?
アメリカ合衆国から日本へ伝わったことにその名が由来する「あめりか芋」。一般的には「七福」(しちふく)と呼ばれ、白い皮と丸々とした形が特徴です。
新島ではさまざまなサツマイモが栽培されていますが、特にあめりか芋は広く定着し、島民に愛され続けているソウルフードです。
しかし、新島村(新島と式根島)の各家庭で食べるためだけに作られているため、市場に出回ることはほとんどありません。
近年、芋焼酎や芋粉を使った加工品などが作られるほど生産量が増えましたが、それでも新島村以外ではほとんどお目にかかれない“幻のサツマイモ”です。
貯蔵すると甘くなる!“蜜芋”タイプのサツマイモ
あめりか芋の特徴は、なんといってもその糖度にあります。
貯蔵することで甘みが増す“蜜芋”タイプで、収穫直後は甘みが少なくパサパサしていますが、貯蔵することでしっとりとした食感に変わり、一般的なサツマイモよりもやや高い14~18度まで糖度が増します。
新島では例年5月~6月中旬(梅雨入り前)に植え付けをし、11月頃に収穫。2~3カ月貯蔵すると食べ頃になります。
新島であめりか芋が長く栽培されてきた理由とは?
そもそも、なぜ新島であめりか芋などのサツマイモ栽培が盛んになったのか。その歴史を紐解いていきましょう。
江戸時代にサツマイモ栽培が伝わる
新島に初めてサツマイモ栽培が伝わったのは、“暴れん坊将軍”で有名な8代将軍・徳川吉宗が江戸幕府を治めていた1735年(享保20年)のこと。
サツマイモ栽培の普及に力を注ぎ、「甘藷(かんしょ/サツマイモの別名)先生」と呼ばれた蘭学者・青木昆陽が、種芋と栽培・貯蔵方法を記した小冊子を新島へ送ったことから始まりました。
“やせ地”を好み、養分が少ない新島の土壌でもよく育つ
新島はコーガ石(抗火石)由来の砂などで覆われており、肥料分や水分を保つ力に乏しい“やせ地”で稲作に適さない土地です。
食糧確保のため、島民は大根や葉物野菜などを栽培していましたが、やせた土壌や「西ん風」(にしんかぜ)と呼ばれる強い西風が吹き荒れる環境では農作物が育ちづらく、たびたび飢饉(ききん)に見舞われていました。
頭を抱えた島民は、青木昆陽によって持ち込まれたサツマイモの種芋を植え付けて栽培を開始。すると、“やせ地”を好むサツマイモの特性と島の土壌がマッチしてすくすくと育ち、栽培は大成功!
飢饉は解消され、新島の貴重な食糧源として島民の生活を大きく変えていきました。
その後、さまざまなサツマイモが持ち込まれましたが、“やせ地”を好む特性が群を抜いて強いのがあめりか芋だったのです。
島で手に入る資源で栽培できた
肥料が手に入りづらかった時代、新島では、海岸に打ち上げられたムク(海草のこと)を芋畑のウネの下に敷き詰めて、ミネラルの供給源にしました。
さらに、山や畑から集めた葉や小枝を堆肥にしてウネに栄養を与えたといいます。身近なもので栽培できたことも、あめりか芋が定着した大きな理由です。
「コーガ石」の貯蔵庫で長期保存が可能に
あめりか芋は長期貯蔵が可能なため、稲作ができない新島では麦がとれない時期の主食として重宝されました。
長期保存を可能にしたのが、「芋穴」という半地下の貯蔵庫です。
縦1m×横2m×深さ1mほどの大きさで、壁面には新島で採石されるコーガ石のブロックを使用。
コーガ石はスポンジ構造をした軽石で、断熱性や耐水性に優れ、貯蔵庫内の温度や湿度を一定に保つことができます。そのため、寒さに弱いあめりか芋でも春先~5月頃まで貯蔵できたのです。
栽培法や貯蔵に至るまで、島の自然を利活用した先人たち。その知恵は今もこの島に息づいています。
20歳の門出を焼酎で祝う「あめりか芋栽培プログラム」
2004年(平成16年)から毎年、都立新島高校の3年生が、“故郷を知る”ことをテーマにあめりか芋の栽培に取り組んでいます。
収穫されたあめりか芋は地元の蒸留所で芋焼酎「七福嶋自慢」に生まれ変わり、「20歳のお祝い」の式典の際にプレゼントされます。大人への門出を祝う伝統的な行事です。
あめりか芋はどこで手に入る?
島外ではめったにお目にかかれないあめりか芋。「食べたい!」という親子は、ぜひ新島へ足を運んでみましょう。
あめりか芋のジェラートが人気♪「新島村農業協同組合」
島の西側に広がる前浜海岸からほど近い「新島村農業協同組合」では、農機具のほか、生活用品や地場野菜・加工品などを販売しています。
あめりか芋が店頭に並ぶのは、11月の収穫を終え、たっぷりと甘みを蓄えた12月~3月頃。白い輝きを放つあめりか芋が新島の冬を知らせてくれます。
「あめりか芋と林檎のジャム」(600円)や「あめりか芋ペースト」(300円)などの加工品は通年販売されているので、どの時期に訪れてもあめりか芋を楽しむことができますよ!
店内のカウンターでは、「新島の特産品を手軽に楽しんでほしい」と、あめりか芋と新島の特産品である明日葉(あしたば)のジェラートを販売。
貯蔵して糖度を増したあめりか芋を焼き芋にして潰し、伊豆大島産のコクのある「大島牛乳」と混ぜて作った「あめりか芋ジェラート」は、ここでしか味わえない貴重な逸品です。
■新島村農業協同組合
所在地:東京都新島村本村1-5-9
営業時間:8:30~17:30
苗から育てたい親子は「新島村ふれあい農園」へ
「新島村ふれあい農園」は、農作物の摘み取り体験、畑の貸し出し、試験栽培などを行う施設。
島内外のコミュニティの活性化などにも力を入れており、農業教室の開催や農作物のブランド化など、新島の農業に関わる幅広い活動をしています。
あめりか芋は販売していませんが、例年5月下旬から6月下旬までは苗を購入することができます(詳細は公式サイトからメールで要問い合わせ)。親子であめりか芋の栽培にチャレンジしてみてはいかがでしょうか?
■新島村ふれあい農園
所在地:東京都新島村字御子の花465
営業時間:10:00~17:00
なお、あめりか芋は東京都の島々に特化したオンラインショップ「島ぽち」でも買えるので、ぜひチェックしてみてください。
新島の人に聞く「あめりか芋のおいしい食べ方」は?
体験イベントに参加した子供たちと一緒に、新島郷土料理研究会の元会長・須貝紀代さんとお友だちの進藤純子さんから、あめりか芋のおいしい食べ方と調理のポイントを教えていただきました!
シンプルで子供受け抜群!あめりか芋の天ぷら
あめりか芋の天ぷらは子供受け抜群のおかず。シンプルながらも、素材のおいしさを堪能できる調理法です。
■作り方のポイント
あめりか芋の風味を逃がさないよう、160度の低温の油で揚げましょう。さいの目切りや短冊切り、輪切りなど、切り方を変えると食感の違いが楽しめます。
さいの目切りのものには、明日葉を細かく刻んで乗せると、彩りが華やかに。明日葉は焦げやすいので、先にあめりか芋を揚げ始め、そっと明日葉を乗せるようにして揚げましょう。
■感想
収穫してすぐのあめりか芋を使用したので糖度は控えめでしたが、上品な味わいと、ほくほくとした食感がとてもおいしかったです。
明日葉とのコンビネーションも絶妙で、あめりか芋の甘みと明日葉の苦みがお互いを引き立てあい、絶品でした!
新島に伝わる保存食「干飯」
「干飯」とは、冬場に吹きつける冷たく激しい西ん風を利用した保存食のこと。冷蔵庫がなかった時代は、どこの家庭でも干飯を作っていたそうです。
■作り方のポイント
ふかしたあめりか芋をフードプロセッサーなどでミンチ状にし、「エンガワ」という長方形の干し籠に広げます。ベランダや庭で西ん風に数日間さらし、乾燥したら完成です。
ハレの日に欠かせない伝統菓子「芋餅」
「芋餅」は、ふかしたもち米と干飯を混ぜて作る、ハレの日に欠かせない伝統的なお菓子。
現在はもち米と干飯を1:1の分量で作ることが多いようですが、昔はもち米が高級品だったので、干飯の分量がとても多かったそう。新島の歴史を感じる一品です。
■作り方のポイント
もち米と干飯を別々にふかし、餅つき機や臼などでつきます。形がまとまったら、片栗粉をふるった台に伸ばして切り分け、あんこを包んで丸めてでき上がり!
2023年夏~あめりか芋に親しむ体験プログラムが始動します
「いこーよとりっぷ」の姉妹サイト「未来へいこーよ」では、新島での子供向け職業体験プログラムを開発中です。
島の成り立ちや特徴をクイズ形式で学んだり、あめりか芋を収穫したり、レンタサイクルで島内を冒険したりと、大人も子供もワクワクできる内容にしていきます。
2023年夏の本格稼働をお楽しみに!
厳しい自然環境を強みに変え、希少性の高いあめりか芋の栽培を可能にした背景には、並々ならぬ先人の知恵と工夫がありました。食べて学べる新島へ、ぜひ親子で遊びに行ってみましょう!
記事を書いた人
谷拓宣
Webライター/Webディレクター。コラムや情報記事、SEOライティングが得意。大学時代は教育を専攻し、中学校・高校の国語科教員免許を持つ。サブカルチャーや映画、まちの歴史などに造詣が深い。
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