施釉磁器モザイクタイル発祥の地<br/>岐阜県多治見で美濃焼をめぐる旅へ
更新日2024年04月05日/公開日2024年04月08日

施釉磁器モザイクタイル発祥の地
岐阜県多治見で美濃焼をめぐる旅へ

コラム
岐阜県多治見市

こんにちは。タイルライターの金藤です。建物の壁や床、店先でキラリと輝く街のタイルに魅せられ、気づけばタイルの世界にどっぷり! そんな私のおすすめ“タイルスポット”をご案内します。

今回は、約1,300年にわたるやきもの産業と文化が息づく「美濃(みの)焼」の産地のひとつ、岐阜県多治見(たじみ)市をご紹介します。ユニークな外観で知られる「多治見市モザイクタイルミュージアム」や、JR「多治見駅」周辺の「本町オリベストリート」を散策しながら、やきもの三昧の親子旅を楽しんでみませんか。

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日本有数のやきものの産地のひとつ多治見市

岐阜県生まれの美濃焼は、和・洋食器の国内シェア50%以上。決まった技法や作風がないのが美濃焼の面白さです
岐阜県生まれの美濃焼は、和・洋食器の国内シェア50%以上。決まった技法や作風がないのが美濃焼の面白さです

岐阜県多治見市があるのは日本列島のほぼ中心。山々に囲まれた日本有数のやきものの産地です。周辺の土岐(とき)市、瑞浪(みずなみ)市、可児(かに)市とともに、この地域で生産された多種多様なやきものは「美濃焼」と呼ばれています。

「美濃焼」とは?

「美濃焼」とは、東美濃地域で生産されるやきものを限定した名称です。長い歴史のなかで、美術品のような茶陶から大量生産の日用食器の生産まで、時代のニーズに応えながら、さまざまな技術開発が進められてきました。

須恵器 ※写真は美濃でつくられたものではありません
須恵器 ※写真は美濃でつくられたものではありません

その歴史を紐解くと、7世紀頃に須恵器(すえき/古墳時代に中国から伝来した土器)の生産技術が美濃に伝わり、安土桃山時代には、自由で斬新な造形と色彩で茶人好みの名陶が創り出されました。

さらに、江戸時代から大正時代には、陶器よりも硬くて白い、白色粘土を使った磁器の生産がスタート。明治以降は大量生産に対応するため、製品ごとに産地を分業化。

多治見市笠原町では、主に茶碗とタイルが焼かれるようになりました。「美濃焼」と聞くとまず食器が思い浮かびますが、タイルも美濃焼の一種。「美濃焼タイル」と正式名で呼ぶ人は間違いなくタイル好きです!

多治見駅に到着したら、まず観光案内所へ!

多治見駅の改札前にある巨大陶壁
多治見駅の改札前にある巨大陶壁

各線「名古屋駅」からJR中央本線で約40分。JR「多治見駅」の改札を出るとすぐ、七代・加藤幸兵衛(こうべえ)の巨大陶壁が出迎えてくれます。この作品を正面に、右に進むと観光案内所が見えてきます。最初に案内所に寄りたい理由は、この地域がやきものの一大産地だから。

多治見市内には、「こども陶器博物館 KIDS LAND(キッズランド)」をはじめ、作陶や絵付けなど、親子でやきもの体験ができる施設が数多くあります。カラフルな釉薬(ゆうやく/陶磁器の表面を覆うガラス質の膜)や、かわいいモザイクタイルを使った体験もでき、きれいな色が好きな子供は、きっと手を動かしたくなるはず。

「こども陶器博物館 KIDS LAND」を詳しく見る(姉妹サイト「いこーよ」)

また、多治見市を舞台にしたアニメ「やくならマグカップも」でも、女子高生が陶芸の世界に引き込まれていく様子が描かれていて、小さな子供だけでなく、老いも若きも多治見のやきものの魅力に魅了されることがわかります。陶磁器やタイルの製造工程が見学できるオープンファクトリーもあり、全部を巡るには車があっても1泊2日じゃ厳しそう。

ということで、まずは、案内所でお目当てのスポットを絞ってからでかけてくださいね。

世界が注目する陶磁器の産地のおすすめスポットをご紹介!

多治見で作られているタイルの数々
多治見で作られているタイルの数々

ここからは、子供が一緒でも移動しやすい、多治見市内の2つのやきものスポットをご案内します。ただし、今回ご紹介するのは、ほんの一部と思ってください。

なにしろ多治見市を含む東美濃は、世界有数の陶磁器の産地として「セラミックバレー」と名付けられている場所。3年に一度の「国際陶磁器フェスティバル美濃」には、国内外から作家や企業が集まり、作風や技術に常に新しい風が吹き込まれているやきものの一大産地ですから、おすすめしたいスポットが点在しているんです。

4月に開催される「タイル感謝祭」もチェック!

【おすすめスポット1】商家や蔵が残る、本町オリベストリート

本町オリベストリート
本町オリベストリート

まずは、JR「多治見駅」から徒歩15分の距離にある「本町オリベストリート」。

「多治見駅」前から、ながせ商店街を抜け、多治見橋を渡ると趣ある景色が目の前に広がります。ここ本町は、かつて美濃焼の陶磁器問屋が軒を連ね、商業の中心として栄えていた通りです。

通り沿いには、やきものを扱うショップや美濃焼が購入できるギャラリーも! 子供と一緒に、景色を楽しみながら楽しく散策できます。

多治見橋の北側に多数展示された陶製オブジェ
多治見橋の北側に多数展示された陶製オブジェ

そんなまち並みを散策する前に、ぜひ視線をむけてほしいのが“まちなかアート”です。

例えば、本町オリベストリート付近の「多治見橋」の北側の県道沿いには、上の写真のような陶製のオブジェが多数展示されています。

こどもと一緒にゆっくりと、やきものの芸術作品を鑑賞できるのは、パブリックアートならではの楽しみですよね。

「本町オリベストリート」付近の川沿いの土手にタイル装飾が!
「本町オリベストリート」付近の川沿いの土手にタイル装飾が!

そして川沿いの土手にはタイルアートが! 花が咲いてなくても華やか。さすが美濃焼タイルの産地です。

モザイクタイルの全国シェアは、美濃焼が8割超だとか。日本のタイルのほとんどがこの地域で作られていると思うとワクワクします。

【おすすめスポット2】タイルのまちとして知られる「笠原町」へ

さて、JR「多治見駅」から東鉄バス(笠原線・東草口行き、または羽根行き)にゆられて約20分。目にも鮮やかな“タイルの街”として知られる笠原(かさはら)町地区へ到着です。

バスを降りて驚くのが、建物の壁や広場の椅子、ゴミ集積所まで、意識して探さなくても目に飛び込んでくる、明るいタイル。

「多治見市モザイクタイルミュージアム」前にある広場の椅子。モザイクアートがかわいすぎて座れない…
「多治見市モザイクタイルミュージアム」前にある広場の椅子。モザイクアートがかわいすぎて座れない…

そんな笠原町のシンボル的存在が「多治見市モザイクタイルミュージアム」です。まるで絵本のなかで見るような、ユニークな建物。遠目でみると、大人なら心配になりますよね。「あんな小さな扉から入れるの?」って。ご安心ください。ちゃんと入れます!

タイルの原料を掘り出す「粘土山」を思わせる外観が印象的。独創的な建築で知られる藤森照信氏が設計
タイルの原料を掘り出す「粘土山」を思わせる外観が印象的。独創的な建築で知られる藤森照信氏が設計

館内の展示室には、昭和時代に活躍していたタイル製品がずらり。著名な建築物でない場合、老朽化とともに施工されたモザイクタイルも廃棄されてしまうのが一般的です。

そのため、館内では膨大なタイルのコレクションを基盤に、この地域で培われてきたタイルの情報や知識、技術を発信するために、各地から集めたタイル製品等を展示しています。

笠原町が発祥の地とされる施釉磁器モザイクタイル。表面積が50平方センチメートル以下の小さなタイルをモザイクタイルと呼んでいます
笠原町が発祥の地とされる施釉磁器モザイクタイル。表面積が50平方センチメートル以下の小さなタイルをモザイクタイルと呼んでいます

なかでも、職人技を感じるのがモザイクタイル画。小さな原画を引き伸ばし、色彩設計を行いながら仕上げていく作業は、人の眼を頼りに美しく見えるように補正しながら組まれています。

地元を中心に、各地から収集されてきたタイルを使用したモザイクタイル画を展示する4階フロア。大人には懐かしく、子供には新鮮な空間です
地元を中心に、各地から収集されてきたタイルを使用したモザイクタイル画を展示する4階フロア。大人には懐かしく、子供には新鮮な空間です

昭和時代のタイル見本は、作り方が独特です。当時、笠原町地区にタイルのデザイナーがいなかったため、婦人雑誌の編み図や刺繍など、手芸の図案を見ながら考えだしていたそう。当時の職人たちが生み出した色とりどりのパターンが本当にオシャレ!

多治見市笠原町出身の山内逸三氏が、施釉モザイクタイルの生産技術を確立させたことで、笠原町のタイル産業が発展していきました
多治見市笠原町出身の山内逸三氏が、施釉モザイクタイルの生産技術を確立させたことで、笠原町のタイル産業が発展していきました

モザイクタイルは、無計画で貼ると、なんだか落ち着かない心地の悪い見た目になってしまいます。美しく仕上げるには、色のバランスや隙間の埋め方など緻密な計画が大切。タイルアートを見るときは、色の配置や角の処理なども鑑賞してみましょう。

 1階に展示してある車のアートは、計算された美しさに目が釘付け
1階に展示してある車のアートは、計算された美しさに目が釘付け

館内では、小さなタイルをフレームに貼っていく体験工房や、ワンコイン工作も体験できます。モチーフや色選びをどうするか? 実際に手を動かしてみると、モザイクタイルアートの奥深さがわかるはず。

土・日・祝日に体験工房、ワンコイン工作に参加する場合は、電話予約が必要です。春・夏休み等は平日も予約制になります。詳細は公式サイトをご確認ください
土・日・祝日に体験工房、ワンコイン工作に参加する場合は、電話予約が必要です。春・夏休み等は平日も予約制になります。詳細は公式サイトをご確認ください

「多治見市モザイクタイルミュージアム」では、ツアーガイドと一緒にまちなかのタイル巡りを楽しむことができるサイクリング&タイル工場見学ツアーなども企画しています。来館前に公式サイトをチェックしてみてくださいね。

■多治見市モザイクタイルミュージアム
住所:
岐阜県多治見市笠原町2082-5
営業時間:9:00~17:00(最終入館は16:30)
休館日:月曜(祝日の場合は翌平日が休館)、年末年始     
アクセス:【電車】JR東海・中央本線、太多線線「多治見駅」から東鉄バス2番バス乗り場(笠原線・東草口行き、または羽根行き)乗車、バス停「モザイクタイルミュージアム前」下車          
料金:個人310円、高校生以下無料(要学生証提示)           
※障がい者手帳所持者、付き添い1人までは無料

「多治見市モザイクタイルミュージアム」の詳しい情報はこちら(姉妹サイト「いこーよ」)

やきもの好きの親子なら一度は訪れたい「美濃焼」の産地のひとつである多治見。今回はその一部をご紹介しました。多治見市には窯元が多くあるので、美濃焼を使った飲食店が多いのも特徴です。「どんな器を使っているのかな?」という視点で、まちのグルメも堪能してみてくださいね。

記事を書いた人

金藤ミチコ

彩り豊かな街タイルを求めて各地を巡るタイル大好きライター。歩きながら素早くタイルを探し出すのが得意。タイルの絵付けもしています。

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