逗⼦海岸映画祭・実⾏委員⻑に聞く
「持続可能なまちづくり」の視点
~長島源さん(『逗子海岸映画祭』実行委員長)インタビュー【前編】~
神奈川県逗子市には、不思議なパワーがあります。県内でも比較的小さなまちに広がるのは富士山を望む海岸と、手つかずの深い森。自然を愛するオープンマインドな人々が暮らし、個性豊かな店が並ぶ逗子銀座商店街には活気があります。さらに「逗子アートフェスティバル」や「池子の森の音楽祭」など、市民参加型のイベントが多いことも大きな特徴。
そんな逗子のまちで、ゴールデンウィークの風物詩ともいえるイベントが「逗子海岸映画祭」です。
実行委員長を務めるのは、逗子に生まれ育った長島源(ながしまげん)さん。若い頃は世界中を旅して、エコビレッジなどを見て回ったという長島さんが、故郷の逗子に根ざして活動する理由とは?
まちを元気にするヒントがギュっとつまった、ロングインタビューの前編をお送りします。
お話を聞いた人:長島源さん
「逗子海岸映画祭」実行委員長、「シネマアミーゴ」館長。逗子市に生まれ育ち、10代から20代までは葉山・一色海岸にある海の家「Blue Moon(ブルームーン)」や、長者ヶ崎にあった伝説のカフェバー「Solaya(ソラヤ)」など、湘南の文化拠点作りに携わる。現在は逗子を拠点に、国内外のさまざまなまちとの文化交流や、地域の文化振興・地域活性化につながるイベントを幅広く開催。モデル、ミュージシャンとしても活躍。
映画・食・音楽・アートの発信基地「シネマアミーゴ」
取材に訪れたのは、逗子海岸からほど近い住宅街の一角にあるシネマカフェ「シネマアミーゴ」。ここは「逗子海岸映画祭」の起点ともいえる施設。スクリーンの前にはアンティークなテーブルとチェアが置かれ、飲食をゆっくり楽しみながら作品を鑑賞することができます。
客席の後ろにあるキッチンカウンターではドリンクのオーダーが可能。以前はこの「アミーゴキッチン」で、さまざまな料理人が日替わりランチを提供していたそう。
隣にはここから独立した「AMIGO MARKET(アミーゴマーケット)」があり、ドリンクやフード類をテイクアウトして持ち込むこともできます。
地域の⼈・⻝・物をフィーチャーする場
作品をセレクトするのは、館長の長島源さん。カフェのスクリーンでは、ドラマ作品だけでなく子育てや環境に関するドキュメンタリーも多く上映されています。
「子供が小学校や幼稚園に行っている間に、子育てや環境問題に関するドキュメンタリーを観に来る人も多いです。子育て系の作品上映時は、ほかのお客様も育児に理解のある方が多いので、小さなお子さんを抱っこしながら見ている方もいらっしゃいますよ。後ろのほうに座って、泣いたらちょっと席を外すという感じですね」
過去の上映リストのなかには、筆者がかねてから観たいと思っていた「いただきます! みそをつくるこどもたち」(オオタヴィン監督/2017年日本)という作品も。日本の伝統食に取り組む保育園のドキュメンタリーです。
「もしかしたら、味噌づくりを行う春頃に、ワークショップとあわせて1週間ほど再上映するかもしれません。実は『シネマアミーゴ』を始めた当初から、味噌作りのワークショップをやっているんです」と見せてくださったのは、カウンター内の床下に隠された…なんと、味噌蔵!?
「最初はカビたりもしたんですが、ずっとここでやっているうちに麹菌が住みついたのか、最近カビなくなりました(笑)。『アミーゴキッチン』をやっていた頃は、調味料もできるだけ地元のものを使うか、自分たちで手作りできたらいいな、と考えていて。食のワークショップも月イチペースでやっていたんです」
もともと「シネマアミーゴ」は、地域の人・食・物をフューチャーすることを意識して始めたのだとか。映画だけでなく、音楽、食、アートなどカルチャー全般を発信する場として利用されています。
情報発信の「場」を作り、世界中を旅した20代
長島さんは逗子生まれ、逗子育ち。日本人建築家の父とイギリス人の母を持ち、自然の多いこのまちで、海で泳いだり山に“秘密基地”をつくったり、ときには庭でテント生活をしたりと、元気いっぱいの少年時代を過ごしました。
大学時代にはイギリスへの音楽留学を経験。夏は兄が開いた海の家「Blue Moon」を手伝い、26歳のときに飲食と音楽を中心としたカフェバー「SOLAYA」のオープンに携わります。同世代の仲間たちとの絆を深めながら、「情報発信の場を作る」経験を重ねたことが、現在の活動へとつながっていきました。
アイデンティティは「逗⼦⼈」
逗子のまちづくりに関わってきた両親の影響もあり、サステナブルなライフスタイルに関心があったという長島さん。例えば「Blue Moon」は建築材のすべてをリサイクル材でまかない、「SOLAYA」は古い保養所だった建物をリノベーション。いずれも、エコロジーと持続可能なライフスタイルを体現する存在でした。
「SOLAYA」が閉店したあとは、モデルや音楽活動と並行しながら世界放浪の旅へ。国内のエコビレッジなども訪ねてまわりました。
原発の反対運動にも関わりましたが「署名活動などにエネルギーを注ぐより、自分のまちで何か1つでも動いたほうが意味がある」と実感したそう。
さらに、世界中を旅してたどりついた結論は「日本人やイギリス人である前に、自分は『逗子人』だ」ということ。地元に根を下ろし、逗子で活動していくことを決意します。
逗子を拠点に活動するための“基地”づくり
逗子に戻った長島さんがまず取り組んだのは、ここで活動するための“基地”作り。それが「シネマアミーゴ」でした。映写室の2階にオフィスを構え、各々の分野で活躍していた「SOLAYA」で出会った仲間たちとともに新たな活動をスタート。社名は「BASE(基地)」。2009年、30歳という節目の年でした。
オフシーズンの逗子を「逗子海岸映画祭」で活性化したい
翌年の2010年、「シネマアミーゴ」の仲間たちと「オフシーズンにも逗子に人が集まるきっかけを作りたい」と話し合い、ゴールデンウィークに映画祭を開催することに。会場に選んだのは、まちで一番の観光資源でもある逗子海岸です。
「海岸近くの通りに住む方々の多くは知り合いなんです。幼い頃からよく知っている僕がこういう活動をしているからこそ、理解を示して下さっている部分はありますね」
なかには、「これ以上音が大きくなると、気になる人もいるだろうから」と、音量チェックをして教えて下さる方も。地元の人たちが温かく見守るなか、同映画祭は10年に渡り開催され、近くのまちや都内からも大勢の人が訪れるビッグイベントに成長しました。
2022年は4月28日〜から5月8日まで開催が決定。4月5日よりチケット販売もスタートしているのでお見逃しなく!
「逗子海岸映画祭」は旅先の文化と逗子のカルチャーが出会う場所
2011年からは、映画祭を一緒に作り上げた仲間たちと「シネマキャラバン」というチームを作り、活動をスタート。国内外のさまざまな地域におもむき、地元の人々とともに表現を行い、共有する体験を生み出しています。
メンバーは、芸術家、カメラマン、ダンサーなど多才なプロフェッショナルたち。その表現範囲は映画にとどまらず、食、音楽、アート、スポーツなど多岐に渡ります。
2022年の6月には、長年一緒に活動してきた現代美術家・栗林隆(くりばやしたかし)さんとのコラボレーションという形で、ドイツのアートフェス「documenta fifteen(ドクメンタ 15)」に招待されているそう。
「シネマキャラバン」の活動で得たつながりやカルチャーを「逗子海岸映画祭」に持ち帰り、発展させ、また違う旅先に運ぶという良い循環も生まれています。
「僕たちがしていることって、国同士の交流じゃないんです。もっとローカルな…、例えばサンセバスチャン市と逗子市のコラボ。そして『逗子海岸映画祭』は地元で根を張っているモノと、旅先で得たモノが、年に1度meetする場なんです」
例えば、スペインの「サンセバスチャン国際映画祭」で出会った料理人が、翌年の逗子海岸で故郷のスープをふるまっていた、なんてワクワクするようなエピソードも。
逗子の食や文化とともに、まだ見ぬ海外のカルチャーまで体験できる場所。それが「逗子海岸映画祭」なのです。
自立したローカル同士の連携で、よりサステナブルな未来へ
長島さんがローカリティにこだわるのは、地域のなかで食・文化・エネルギーをまわすことが、持続可能な社会につながると考えているから。
「日本には自然豊かで素晴らしい地域がたくさんあるのに、過疎化や高齢化が進み、都市に人が集中しすぎてますよね。遠くから大量の電力を1カ所に運ばなくてはならず、電力ロスがすごいことになってしまう。食料も同じで、労働力が安い海外からの輸入食品がどうしても多くなるんだけど、エネルギー面を考えたら地元のものを食べたほうが絶対に効率がいいんです」
食やエネルギーを地域でまわせるようになれば、一極集中によるアンバランスは少しずつ正されていくし、自立した小さな集合体同士が横で連携すれば、よりパワーアップできるはず。そんな仮定と実感に基づき、今も長島さんは“自分の足元にあるモノ”を見つめています。
長島源さんインタビュー【後編】 近日公開!
記事を書いた人
雨宮あかり
「いこーよとりっぷ」エディター/食べること・飲むこと・音楽が大好きなママ編集者。世界中の音楽フェスを体験すること&ベルギービールの醸造所めぐりが夢です♪ 特技はアロマセラピートリートメントです。
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